ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



「あっ、えっと、私家で自分で作ってるし、どうかなって……」


おそるおそる提案してみたら、渚は一瞬目を見開いて固まったけれど、みるみるうちに笑顔になって。


「っ……ありがとう。
やばい、すっげー嬉しい」


うっ……かわいい。


渚の後ろにブンブン揺れる犬のしっぽが見える……。

笑った顔、ほんといつも心臓に悪い……。


「でも、ほんとにいいの?」


「うん……その、渚に喜んでほしいから」


「あー……今ここがスーパーじゃなかったら、絶対に押し倒してる」


「っ、ばか!」


人前でなにいってるの!?

ほらもう、お姉さん、ポカンとしてるじゃん……。


「だって急にデレるなんて思わないから。
かわいすぎ、最高。まじでにやける。一瞬意識なかった」


いいかげん黙ろう!?


口元に手を当てて、でも私からはじっと目を離さない渚。

だから、こんな外で熱っぽい目するのやめてってば!


「ふふっ、お熱いおふたりね。
よかったら、こちらもいかがですか?」


「すみません……」


いつの間にやらクスクス笑われていた。

ほんと、はずかしい……。


それから差し出されたのは、春巻き。


「これ、むぎの好きなやつだろ?」


昔からお母さんの作った春巻きが大好きで、お弁当のときはよく入れてってねだってたっけ。


「うん、好き……」


「うらやまし」


「え?」


「むぎにこんなどストレートに好きって言われる春巻きがうらやましい」


「はっ!?」


スっと目を細めて、恨めしそうに春巻きを眺める。

は、え……?
まさか食品に嫉妬してるの!?


「ふふふっ、ほんっとに面白いふたりね」


「「あ……」」


「すみません」

「ごめんなさい……」


またもや話に夢中になってしまった。

ほんっとはずかしい……なんなんだこのバカップル、周り見えてなさすぎだろって、絶対思われてる。


「ふふ、男前な旦那さんにもかわいいところがたくさんあるのね」


「だっ、旦那さん……」


「指輪してるからてっきりそうかと思って。それにふたり、パズルのピースがぴったり組み合わさったみたいにお似合いだから。ちがった?」


「いえ、旦那で合ってます」


「ふふふっ、ベタ惚れなのね」


「はい」


「ちょっ、だから人前でなにいってんのって!」


「だって事実だし」


「ううっ……もうっ、」


「でもあなたも」


「え?」


「なんだかんだ言って、すごく嬉しそうよ?頬緩みっぱなしなの、隠せてないわよ」


「えっ!」


両手を頬に当てれば、口角が上がってるのが自分でもわかる。


「あっ、こ、これはっ」


「ほんとだ。むぎも俺にベタ惚れでいてくれてすっげー嬉しい。好き」


「もう、渚っ!」


私何も言ってないって!

それに!ずっとお姉さんいるって!


渚の胸の辺りを押して、グッと押しのけようとするけれど、渚はゆるゆる頬を緩めて、私の頭をなでるだけ。


「ふふふっ!
末永くお幸せにね」