ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。



「も、もう渚!
ここ外、だから……!」


急速に熱を持ち始めた体に慌てて離れようすれば。


「だめ。待って」


「なに……っ」


「冷房ガンガンだから、羽織っといて。女の子なんだし、体冷やしたら良くないだろ」


驚く間もないままに、ふわっと肩にかけられた渚のカーディガン。


「べつに、大丈……」


「俺が大丈夫じゃねーの。むぎの体のこともあるけど、俺のためでもあるから」


「渚の、ため?」


「そう。男物身につけてるだけで牽制になる。いくら俺が隣にいるからって油断ならないし、むぎは俺の、だから」


暑いかもしんないけど、頼むから着といて。


「……」


はずかしい……。


渚、ここがどこだかわかってる?

スーパーだよ。通路のど真ん中だよ。


こんなとこでなにやってんだよ。

そんな目で見られてるって分かってるのに。


こんな……バカだ、私。


こんなに周りに人がいる状況で。

ふれてもないのに、カーディガンから香る渚の匂いにドキドキして。


ただの変態だよ、こんなの……。


「すっげーかわいい顔してる」


「っ、だって……」


「俺に抱きしめられてるみたいって?」


「っ……」


図星だ……。


「はぁ……ほんっとに、」


なにかをグッとこらえるように空を仰いだあと、細められた目でじっと見つめられる。


「ぶっちゃけ今、手、めちゃめちゃつなぎたい。
でも……」


「っ……」


そっと手と手が掠めて。

同時に。


「なぎっ、」


「しー……我慢な」


耳に寄せられた唇が、甘く脳を震わせる。


「少しふれただけで、そんなとけた顔されたら、俺買い物どころじゃなくなっちゃうし、こんなたくさんの人にかわいい顔、見せたくないから」


「っう、」

「俺と、ふたりきりのときだけにして」


だから……夜、あとでいっぱい見せて。



「っ……そ、それは渚がこんなとこで」



ふれてこようとするから。


「だって、大好きな彼女とスーパーで買い物とか、浮かれない男いねーだろ」


「〜〜!!」