「ネヴィル君はこの事を知っているのかね?」

「いいえ、私の一存です」

「ならば、簡単には決められぬ」

「ですが、お父様。 私はそうしたいのです」

「駄目だ、フロタリアはネヴィル君と結婚するのだ。 そして彼の妻として伯爵家を守って行くのだ」

 ソファーには、私がまだ幼い頃に付けた悪戯の跡が今も残っている。
 父の持つペンの尖った先で、ソファーの布地を引っ掻いたのだ。
 書斎には入るな、と言われていたのに勝手に入ってソファーを傷つけてしまい、酷く叱られてショックで泣いた事を覚えている。

 それは父に叱られたせいではない。 書斎への立ち入りを禁じられ、そこがどういう部屋か、まるで私には何もわからない事が悲しかったのだ。

 以来、私が勝手に入る事はなくなったが、同時に父との高い壁をも感じるようになった。

「今日は泊まって、明日には学校に戻りなさい。 この件をネヴィル君無しで進めるわけにはいかないよ」