書斎のドアをノックすると、低く落ち着いた声が中から聞こえて来る。

「入りなさい」

 許可を受け、静かに開ける。

 重厚感のある執務机に壁一面の書物、歴代の男爵の肖像画。
 それらを長年に渡って守り、引き継いで来た父。 執務机で書類に目を通す姿は昔から何も変わらない。

「急にどうしたのだね、フロタリア」

 普段は温厚な父だが、執務中は厳しく、邪魔する事を良しとしない。 今も、娘である私にすら冷たい。
 その全てが私の意思を揺るがせるようで、思わず怯んでしまう。

「お父様に大事なお話がありまして、一旦帰って参りました」

 父は椅子に深く凭れ、いったい何事かといった顔で髭を擦りながら思案している。

「まずは話とやらを聞こうではないか。 そこに座りなさい」