「どこにいらっしゃったのですか、フロタリア様?」

「ごめんなさいね、ジャクリン。 少し外の空気を味わいたくて散歩していたの」

「だったら私を待って下されば良かったのに。 フロタリア様お一人で散歩だなんて」

「風が気持ち良かったわ。 それにジャクリンにも用があったでしょう?」

 貴賓室を出て庭園を歩いていたら、ジャクリンが私を見つけて走って来た。
 勲爵士を父に持つ娘だけあって、その姿はまるで女騎士のようだ。

 確かにエマ様の言う通り、私はどうして彼女の名前を知っていたのだろうか。
 どこかで会ったとか、聞いたとか、見かけたとか、そんな事もなかったはずなのに。

 それに気味の悪い思いがもう一つある。
 ネヴィル様やデューク様と同じ、ご学友の殿方についてだ。
 会話をする機会もないし、互いに紹介し合う事もない。
 なのにラウンジや食堂ですれ違ったり、彼らの声を聞いたり匂いを嗅ぐと身体が震え出すのだ。

 だからエマ様から聞かされた話。 あの貴賓室の匂い、家具の見覚えで、その可能性を完全に消し去れないと思った。

 だとしたら、どういう事だ。 どうして私は何も覚えていないのだろうか。