この不快な部屋に入った瞬間から吐き気を催す気持ち悪さはあった。
 理由はわからないし、二人から聞かされた物語にも同様に怒りを感じる。

 全てはネヴィル様の婚約者である私への嫌がらせ。 そんなにまでして私を邪魔者扱いしたいのだ。

 エマ様はそんな卑怯な真似をする方ではないとずっと思っていたのに。 彼女を見ていると、温かい気持ちになっていたのに。
 そんな私を嘲笑うエマ様の言葉に、裏切られたような悔しい気持ちが溢れていく。

「例えば、フロタリア様と同部屋のジャクリン。 彼女の事は入学前からご存知ではありませんでしたか?」

 そうだ、ずっと不思議だった。
 初めて会って、知らないはずなのに名前を知っていて。 だから初対面の気がしなかった。

「例えば、私……。 懐かしいような、そんな気がした事はございませんでしたか?」

「どうして……」

「ねぇ、フロタリア様。 皆が私とネヴィル様の噂話をしているのは知っています。 フロタリア様とは意味は違いますが、私もネヴィル様を愛していますもの。 お部屋へ伺ったり、時には二人きりになる事もございましたわ。 ですが、皆の言うような関係になるわけがないのです」

「婚約者がいらっしゃるから?」

「それもあります。 今は申せませんが……」

「エマ様はいったい誰なのですか? 私の身に何が起こっているとおっしゃるのですか?」

 エマ様は詳しくは何も教えてくれなかった。 ただ一つだけを除いて。

「善人と悪人の違いは見た目だけでは見分けられません。 そして悪意の中にも光はあるのですよ。 その光がきっと貴方を導いてくれます」