「フロタリア様、どうなさいました?」

 エマ様が心配そうに私の顔を覗き込む。

「い、いいえ……」

 エマ様だけではない。 コゼットも一緒。

 その彼女が準備したお茶が差し出され、エマ様は一口含み、喉に流し込んだ。
 私の目の前にあるお茶はまだ手付かずのまま。 飲みたくない、怖い。

「フロタリア様は、この部屋にいらっしゃった事がおありですの?」

 エマ様が聞く。

「私のような下位の者が来るべき場所ではありませんもの」

 震える身体を押さえて必死に隠しながら、答える。

「来た事がないのに、どうしてそんなに真っ青なお顔をなさっているのでしょう?」

「わからないのです……。 確かに来た覚えはないのに、身体が勝手に反応してしまって……」

「ご存知ですか、フロタリア様? 人間というのは都合の良い生き物でね、嫌な記憶を忘れて無かった事にしようとするものなのですよ」

「どういう、意味ですの?」

「フロタリア様は一度ここに来た事がおありのはずですわ」