やって来たのは貴賓室。
 扉を開けた先の、壁に飾られた肖像画や風景画、多くの書物が並ぶ本棚、上位貴族に相応しい執務机、重厚感のあるソファー。

 下位貴族の私には縁のない部屋だ。 来た事もない。
 なのに一歩足を踏み入れた途端……いや、部屋の匂いを嗅いだ途端、身体が無意識に震え出した。

「ごめんなさい。 どこに耳や目があるか、わからないものですから」

 エマ様がソファーを指し示し、私は向かい側に座った。

 ジャクリンは先生と話をしている。
 いつものように図書室に行くから大丈夫、と私が言うと安心して、側を離れて行った。
 エマ様の指示だ。 誰も勘繰られずに、連れて来ないようにと。
 だが、いくら地位が上のエマ様の指示に逆らえないからとはいえ、一人で来た事に後悔している。