翌日、エマ様が侯爵家から戻られた。

 その様子は特に変わった雰囲気もなく、以前と同じようだ。
 学舎で令嬢のどなたかが前に押される形で聞いた。 婚約はどうなさったのか、と。
 婚約者のいる者同士のスキャンダルは無関係な者にとって密だ、知りたくてたまらないのだろう。

 すると顔色を変える事なく、エマ様は答えた。

「そのうち、わかるでしょう。 発表を楽しみになさってね」

 これは破棄確実だ、と大騒ぎ。

 私がそこにいるのも構わずにネヴィル様とエマ様の噂話で盛り上がり、静けさが漂う暇もない。
 この学校で私が見たのは、他人の不幸が持たらす喜びは何にも変えられない至上の快楽だと言う学友達の楽しそうな顔。

 こんなにも人は無神経になれるのか、と心が冷めていく。
 だがきっと、そんな私の顔も無表情なのだろう。

「フロタリア様、少しよろしいですか?」

 エマ様が声を潜めて私に話し掛けて来た。
 その声はおそらく、誰の耳にも届いていない。

「大事な話がありますの。 誰にも内密で」