「フロタリア、寮生活には慣れたかい?」

「えぇ、もうずいぶん経ちますもの。 ジャクリンがいてくれるから心強いし、デュークはおもしろい書物を色々と薦めて下さって視野も広まったような気がしています」

「デュークはフロタリアに会いに行っているのか?」

「図書室で初めてお話したのをきっかけに知り合いました。 私が本を探していた時によく前を見ずにぶつかってしまいましたのに、デュークは気にする素振りもなく一緒に探して下さいました。 それから時々、私の知らない世界へと引っ張って連れて行って下さるのです」

「彼の事はデューク、と呼んでいるのかい?」

「とても気さくな方で、貴族ぶらないのです」

「フロタリアは彼を気に入っているようだね」

「そのような事は……。 ただ、一人の人間として尊敬できる方だと思っています」

 どうしてこんな、ネヴィル様に向かってデュークを誉めるような言い方をしたのか、自分でもよくわからない。
 エマ様との噂もあって、私の中に妬みや恨みのようなものがあったのだろうか。

「ネヴィル様はお帰りにならないのですか?」

 聞くつもりのなかったはずのそれを思わず口にしてしまったのは、私の心が距離を置きたいと思っているからなのかもしれない。
 あの恐怖を感じた日からずっと拭えない違和感と。

 それはネヴィル様に対してというより、ネヴィル様を通して何かが見えてきそうな恐怖が私に纏わりつくのだ。