この痛み、覚えている。
 どうしてこんなにも朧気な記憶なのに、身体はその痛みを忘れられないのだろうか。

 遠い、遠い記憶の中で浮かび上がりそうな何か。 思い出したいのに、今はもうその気力も尽きた気がする。

「ネヴィル様……」

 寮に戻る事ができず、学校を飛び出した。
 もしかしたら今頃、私を探したりしているだろうか。 だがもう、戻りたくない。

 学校の側には川が流れていて橋の上から見下ろすその下では、こちらへおいでと私を呼んでいる気がする。

 身を投げるのがこんなにも容易いのかと今、知った。

 どこかで幼い子供が遊んでいる。
 私も幼き頃にネヴィル様とよく遊んだものだ。

 お母様、と呼ぶ女の声も聞こえる。
 あぁ、最後にお母様に会いたかった。
 そしてできるなら、ネヴィル様の側でそんな存在になりたかった。

 だがもう、ネヴィル様の隣にはいられない。
 それが許される女ではなくなったのだ。