私はホッとし、殿方に礼を言った。

「ありがとうございます」

「いいえ、お気になさらず。 それより、これは難しいでしょう。 貴方のような方が読むならもっとわかりやすい物が良いのに」

 私が探していたのはこの国、トリスタノルン王国の歴史本。
 過去を知る為の、よくある書物なら他の物をいくつか読んだが、これはただのありきたりな歴史ではなく、功績を残した人物や罪を犯した人物といった、歴史に関わる人物像を詳しく書き記した書物なのだ。

「いえ、これが読みたかったのです。 これは歴史の道しるべのような物ですもの」

「なるほど。 では、貴方が読み終わった後は俺も読んでみる事にしよう」

 あまり長く立ち話をしない方がいい。
 本棚から取って頂いた礼は言ったし、ジャクリンを探さなければ。

「失礼、自己紹介しても宜しいですか?」

「ええ」

 なんという事だ。 礼は言ったものの、自己紹介もしないで立ち去ろうとしたなんて。