そのナイフを男に手渡された時、悟ってしまった。
 既に自分は穢れていたのだ、後戻りなど何の意味も持たないのだ。

 清い身体は幻想で、その皮膚から溢れ出る物が赤い血なのか黒い魂なのかすら判別できない。
 苦痛を感じるのは己の心に未練があるからだと言われた。
 だからさらに突き刺したのだ、深く抉るように。
 麻痺した苦痛が体内に戻った時、喜びが身体中を駆け巡った。

 これであの女は永遠に回り続ける。 地獄と、その扉の前で。

「いい顔をしているな」

「えぇ、これで貴方とは運命共同体よ」

 既に儀式を終えていたその人とは同じ目的で結ばれている。

 いや、正確には同じではない。
 あの女への憎しみと深い欲望、とでも言えばいいだろうか。

「これで邪魔者は消える」

「あんな女、本当に目障りだわ」

「俺が何をしても笑っていそうだな」

「好きにすればいいわ」