「ジャクリン? ごめんなさい、勝手に外に出て……」

 夜が全てを覆い隠すのだと知ったのはその時だ。
 罪も嫉妬も羨望も何もかもを黒く染めてしまう。

 立ち止まり、振り返ろうとした時だった。
 その気配に背中を強く押されて、踏み止まる事ができない。

 私は寝間着の上にガウンを着ていたが、その裾に足を取られて転倒し、転がりながら下り坂を駆け抜けて行く。

 どうにも叫び声を上げる間もなかった。
 女というのは弱いもの、特に令嬢なんて身を守る術を知らない。

 身体を打ちつけながら、私の身体は池へと吸い込まれて行った。

 もがきながら、耳に届くのは遠くから男女の楽しそうな笑い声。

「邪魔なのよ」

「悪いな、フロタリア」

 どこかで聞いた事のある、耳馴染みのある声。

 そして私は池の底へと落ちて行った。