どうしても寝つけない。

 夜中に彷徨く趣味はないし、そんな下世話な真似は令嬢に相応しい振る舞いではない、と実家で散々教育されて来た。

 だから少しだけ夜風に当たれば、気持ちが落ち着いて寝られそうな気がしたのだ。

 同部屋のジャクリンは熟睡していたし、ここなら女一人の私でも危険ではないだろう。

 寮の部屋をバルコニーから出て、噴水のある池の方へとしばらく歩くと、夜空にはたくさんの星。

「ネヴィル様の邸で、こっそり二人で星を見た事があったわ。 とてもキラキラして綺麗で、星の名前もわからない私にネヴィル様は丁寧に教えて下さった」

 あの時は二人、手を繋いで楽しかった。
 ネヴィル様の手から伝わる温もりが包容されているようで、嬉しくもあったのに。
 それが今ではネヴィル様を想いながら、一人。

 外の庭はバルコニーの周囲が平面なのに対し、池に近づくにつれて下り坂へと変化する。
 その池をさらに過ぎた先には休憩できるテラスがある。
 そこで星を眺めてから、戻る事にしよう。

 下り坂まで来た時、ふと後方から人影が近づく気配がする。