「お父様、ただいま帰りました」

 邸の玄関ポーチで私を迎えるお父様は、留守をした少しの間に年を取ったように見える。

 それは向こうの世界のお父様があまりにも若く、美男子だったせいだろう。

「エマヌエル、お帰り」

「お父様、もう大丈夫です。 何もかも」

 それだけ言うと、お父様は安心したのか、ホッと肩が下りたようだ。

「フロタリアは元気だったかい?」

「えぇ。 とてもお綺麗で、儚ささえ感じてしまうほどでした」

「そうか……元気で暮らしているのか……」

「お母様はきっと、お父様と幸せに暮らしていらっしゃいますわ」

「だが、できる事なら……」

「そうですね……。 私も……」

「向こうではフロタリアは若い俺と結婚するのだろう?」

「あら、お母様だってお若いのですよ?」

「それはわかっているのだがな……」

「お父様ったら、ご自分に嫉妬していらっしゃるわ」

「俺はフロタリアを心から愛していたのだぞ」

 もう繋がる事のない世界。
 お母様はきっとこれから幸せに生きて行く。

 向こうの世界で関わった人の記憶は次第に薄れ、数年後には何も起こらなかったかのように日々が過ぎていくはず。

 それでいい。 それがいい。

「さぁ、エマヌエル。 中に入ってお母様の話を聞かせておくれ」