そこに現れたのは小さい身体で真っ直ぐな艶めく栗色の髪を自慢気に揺らす、瞳の綺麗な人物。

「初めまして。 フロタリア様……で、よろしいですか?」

「ジャクリン……」

「あら、私の名前をご存知だなんて光栄ですわ」

 思わずこちらの口角が上がってしまうほどに、可愛らしいその顔が赤らんだ。

「ジャクリン・ターナーと申します」

 私は彼女の名前を知っている。

 それがどうしてなのか、わからない。
 前に会った事があっただろうか?
 いや、思い返しても記憶にない。
 初めて会うはず。 知り合いではない。
 なのに彼女の、目の無くなるほどに屈託のない笑顔には覚えがある。

 どこかで会って、忘れているだけなのか。

「ごめんなさい、失礼ですが貴方のご出身はどちら?」

「生まれはここから遠く離れた田舎です。 父が数年前に勲爵士の称号を得たのをきっかけに、私と母も街中へと越してまいりました」

「まぁ、ご立派なのね」

「おかげで私もこんな素晴らしい学校に入学する事ができ、しかもフロタリア様と同室にまで」

「努力なさったのね」

 こうして話していても知っている事は何もない。 初めて会うのはおそらく確か。
 きっと私の勘違いだ。
 世の中にはそんな風に親しみを感じる相手がいると言うし。

「よろしくね、ジャクリン」

「えぇ、お世話になります。 フロタリア様」