幾つもの蝋燭の火が揺らめき、暗く淀んだ空気が心の臓を濁らせていく。

 もう後戻りはできないし、するつもりもない。
 あるのは深い憎しみと焦がれた妬心だけ。
 憎い、憎い、あの女が憎くてたまらない。

「本当によろしいのだな?」

 全身を黒く覆う正体不明の男が言った。
 何者かは知らされていない、知ってはいけないと言われた。

 その男の最後の問いに、口を閉じたまま頷く。
 決して口を開いてはいけない、魂を取られたくなければ何が起きても口を閉じよ、と言われたのだ。

 その儀式はおぞましく、立ち続ける事さえ困難なほど。

 台に置かれたナイフはどす黒く、その重たさがまるで集められた魂のようにも思える。
 正体不明のその男同様に全身を黒く覆った自分の身体が震えて、真っ赤に染まっていくような気がした。