雪深が彼女のことをどれだけ好きだったのか、わたしにはわからない。
ほかに結婚する相手がいると聞かされて尚、女という生き物を嫌うことなく、むしろのめり込む様に関係性を深めていった彼の本気度なんて、知るはずもない。
……だけど。
「うん。……しあわせだよ」
本心からの笑顔に、愛おしさで胸が詰まって苦しい。
出会って一ヶ月で、お互いのことなんてよく分かるはずもないけど。それでも目に見えて距離が近づいたことを実感すればするほど、五家と過ごす時間が愛おしくなる。輝きを増す。
「……あたしが出来なかった分まで。
ユキのこと、しあわせにしてあげてください」
彼女がそう言って微笑む。写真の中よりも、圧倒的に綺麗な人。
もうしあわせみたいだけど、と付け足した彼女。なぜかその場の勢いで頷いてしまったのはいいが、ひとつ問題がある。
……わたし、雪深の彼女じゃないのよ。
「それじゃ、お邪魔しました。
連絡先変わってないし、何かあったらいつでも連絡して。……優先できるかはわかんないけど」
ちら、とわたしと繋いだ手を軽く持ち上げた雪深が、そう言って彼女が抱く子どもに「またね」と微笑んだ。
まん丸な黒く濡れた瞳でじっと雪深を見返すその子。当然ながら返事はないため、代わりに彼女が「また遊びに来て」と社交辞令をくれた。
「もちろん彼女さんも一緒に」
「ふ、りょーかい。んじゃ」
ひらり、と手を振る彼。
そのまま繋いだ手を引かれて、咄嗟にぺこりと頭を下げるものの、エレベーターに乗ってからは思考を整理するのに脳が忙しかった。
あんなに不安そうな顔をしていたくせに、どうして今はそんなに生き生きとした顔をしているのか。
ずっと不安そうな顔をされていても困るけど。
「わたし、雪深の彼女じゃないのに……」



