「突然押し掛けてごめん。
……別に怒ってるとかそんなんじゃなくて、ただあんな別れ方したからちゃんと顔見て話したかっただけ。もう吹っ切れてるし」
「………」
「あの時は言えなかったけど。
……結婚と。あと、出産。おめでと」
たくさん考えたんだと思う。
彼女に会ったら何から言うべきだろうってたくさん考えて、その中で雪深が出した答えがこれだ。シンプルに感情を伝えるだけのもの。とても雪深らしい。
「……でも、俺と別れて後悔したってちょっとは罪悪感感じといてよ」
冗談交じりにそう言う雪深。
本気で引きずってるようには見えないから、ほっとする。強がりでもなんでもなく、雪深の本心。……きっと彼女は、言われなくても後悔してるだろうけど。
雪深と出会ってから一ヶ月。
まだ知らないことも山ほどある。過去の彼の様子も知らない。……だけど。わたしが知ってるどんな時よりも、清々しい顔をしてる。
「あのとき……一瞬の気の迷いだった、の。
周りがどんどん結婚していって、ユキが年下ってこともあったから、焦ってた。……そのときに今の旦那と、気の迷いで」
「うん。……もういいよ。
俺がまだガキだったってだけじゃん」
「……妊娠してる、ってなったとき。
ユキの子どもならよかったのに、って思ったのは嘘じゃない」
雪深が、小さく息を呑んだ。それから迷うように視線を動かして、結局うまく言葉を見つけられなかったのか「そっか」とだけ口にする。
……たとえばそれが雪深の子どもだったら、と、その可能性を考えて。関係者でもないのに得体の知れない焦燥感が胸を撫でる。わたしが安堵するなんて、おかしな話。
「ああやって突き放したけど心配してたから。
……そんな顔で笑えるようになってくれてよかった」
「、」
「あたしが一緒にいた時より、しあわせそうな顔してる」



