心情を吐露するような、彼の小さなつぶやき。

そうねと返して、目的地の最寄り駅で降りた。御陵のネットワークをちょっと使えば、目的の相手の住所くらいはすぐにわかる。何せ、雪深が相手の情報をある程度知ってるわけだし。



俺の知ってる名前が本名じゃなかったらどうしよ、と彼は笑ってたけど。

彼女が雪深に名乗っていたのはちゃんと本名だったようで、変わっていたことと言えば、名字だけだった。



「ここから徒歩で十分程のマンションよ。

いくらキャリアウーマンでも限界のある良いマンションに住んでるから、相手の男性はきっとお金持ちなのね」



「俺に勝てる男なんだろ~?

容姿とか若さとか差し引いたら、どう考えても金しか残んねえじゃん」



「あなたのその自分の容姿に対する自信の強さ、わたし嫌いじゃないわよ」



「ふは、ありがと」



自信どうこうはさておき、本当に見る目麗しいのは事実だけど。

彼とマンションまで足を向けて、エントランスで何の違和感もなくマンションの鍵を取り出したわたしに、彼が「え」というような顔をする。




「……なんで鍵持ってんの?」



「御陵が、まさか組の運営だけで成り立ってる訳ないでしょう?

それぞれ事業も展開してるのは有名な話よ。……そのひとつが、不動産関係」



「……もしかしてここって、」



「御陵の不動産は主に高級マンションの取り扱い。

……彼女が良いところに住んでてくれて助かったわ」



「御陵がすごいのかお嬢がすごいのか……」



ガチャ、と鍵を差し込み静かに回す。

オートロックのガラス扉は静かに開いて、「行くわよ」と雪深の手を引いた。彼女はどうやら現在専業主婦のようだし、家にいる確率は高いはず。



「……てか、ここに来てなんだけどさ。

今日休みってことは、旦那いる可能性高いんじゃ、」