たとえば幼い頃、養子として男を迎えていたら。

正式な血筋ではなくとも、御陵の男として跡を継ぐことが出来る。それをしなかった御陵のトップの意思はさておき。



反発の意見が、少なからず出た場合。

抗争の二文字に、平和なんて言葉は無いのと同じ。──それこそ、死という言葉の方が、圧倒的に近い。



「雪ちゃん?」



「俺……何も、分かってなかった、」



どれだけ御陵のお嬢が危険な立場にあるのか。

そして。……お嬢がどれだけの覚悟を持っているのかも。何も、わかってなかった。結局は甘ったれて、流されてきただけ。



お嬢に、屋上でどうでもいいと一蹴したあの時は、まだ何もわかってなかった。

どうでも良くなんかなかった。生きることにも死ぬことにも関心がなかった俺にとっては、当たり前のことが目に入ってなかった。



俺自身に対して、死という文字に執着はない。

でも……違うだろ。お嬢が。ほかの五家の誰かが。もし、その死の場面に直面するって、考えたら。途端にどうしようもないほど、怖くなる。




「雪ちゃんの悪い癖だなぁ、そうやってひとりで考え込むの。

……ほーら、鏡の向こうのイケメンが台無し」



「和璃さん、」



「君たちが関東に来た頃……雨麗ちゃん、ぼやいてたよ?

護衛としてそばにいてくれるのは構わない。──だけど、絶対あの子達を危険な目には遭わさない、って」



「え……?」



「実は、生きることとか死ぬこととかそういうのに一番関心がないのって、雨麗ちゃんだよね。

たぶんあの子。……護衛が五人いたとしても。いざって時は、一番に身を投げるよ」



言われていることは、何か難しいことじゃない。

言葉通りのものばかりなのに、それを上手く呑み込むことが出来なくて、目を瞬かせる。いざって時って何。……身を投げるって、何。



「雨麗ちゃん平気な顔してるけど、さ。

三年ぐらい、前。中学生になりたての頃か。……一度だけ、自殺しようとしたんだよ」