少し前の俺だったら、こうやって他人に助けを乞うこともなかっただろう。

自分の世界が、明らかに音を立てて変わっていくのを実感する。積み重なった感情が、自分中心からお嬢中心への世界に変わっていく。



それを怖いと思わなかったわけじゃない。

だけどそれを乗り越えてでも、信じてみたいと思ったから。



「そんなの、結構簡単だと思うけど」



「……簡単、ですか」



「うん。だって、相手のことをどれだけ知ってても知らなくても、変わらないものは本人の気持ちだよ。

それを伝える一番の術は、言葉なんだから。どう思ってるのか、自分の言葉で、しっかり彼女に伝えてあげれば良いんだよ」



「……それを、小豆さんたちがやってきたんですよね」



「うん、そうだね。でもさ。その"先にやってきた人たちがいる"ことへの不安も全部、言っちゃえば良いんだよ。

そうすれば、雨麗ちゃんは、あいつらに言われたことも頭に入れた上で、雪ちゃんの話聞いてくれると思うけどな」




無理をして欲しくない。

お嬢は、お嬢にとって俺がいないことへの寂しさは、俺でしか埋められないと言ったけど。俺だってお嬢を失いたくないこの気持ちを伝えれば、わかってくれる?



「……むずかしいです、何もかも」



「はは、いいじゃん。青春って感じで」



「そんな生ぬるいこと言ってたらあっという間に殺されますよ、俺らの世界は」



何気なく、言ったこと。

だけどその言葉に一番大きく影響を受けたのは、自分だった。……日本の極道の平和は、御陵の力が大きいことによって、保たれている。



つまり。御陵が永遠に王となる存在であるのなら、抗争なんてものは起こったりもしないだろう。

ただ。……例年と違うのは。御陵のトップに立つ人間が、御陵の血の流れない男に変わるということだ。──結婚という形で、跡を継ぐんだから。



それに否定的な意見が出ないわけがない。

それこそ、内部抗争が起こらないと、言い切れない。一人娘であることに関しても、おそらく誰もが仕方ないと思っている訳では無いだろうから。