御陵のプライバシー問題的に当たり前のことだけど、あまり外部に内側の話を知っている人間はいない。

和璃さんはお嬢たちとも親しいようでこうやって色々教えてくれるから、俺も知らない話をここで教えてもらうこともある。



「……ずっとお嬢に仕えてるんじゃないんですか?」



「ううん、雨麗ちゃんが高校生になるちょっと前。

だからみんながこっちに来る、ってなった時ぐらいかな。もともと御陵で働いてたし、雨麗ちゃんと関わりのある仕事はしてたみたいなんだけどね」



「へえ……」



「お嬢に仕える、っていうのはやっぱり前と違ってさらに大変みたいだけど。

……それでも、あいつはかなりマシだと思うよ。雨麗ちゃん、そんなのあいつに任せときゃいいんだよっていう仕事まで、自分で受け持ってるらしいから」



「………」



「自分が跡継ぎだから。

……他人に任せてられない、ってね」




いつか倒れてもおかしくないんじゃない、と。

今更知る主人の働き方に、ゾッとする。それ以上に、どうしてまわりの人間はそれを止めないんだ、と思ったけれど。──止めても、無駄なのだ。



「……俺、ちょっと前までお嬢に反抗的っていうか、御陵五家とか正直どうでもいいって思ってて」



きっと、今までに何度も止めてきたんだろう。

お嬢に過保護なあの小豆さんが、お嬢の労働の仕方に口を出さないわけがない。なのに小豆さんがそれを寛容してるってことはつまり、止められないってことだ。



それだけの覚悟が、お嬢にはあるから。

何を言われても意地でやってのけてしまうだけの実力が、お嬢にはあるから。



「でも、最近ちょっとしたきっかけで、

考え方っていうか自分の世界観が変わったと思うんですけど、」



「ああ、雨麗ちゃんのこと好きそうだよね、雪ちゃん」



「……、どうしたらわかってもらえると思います?

お嬢は俺らのことを誰よりも熟知してるけど、俺らはお嬢のこと何も知らないじゃないですか。そんな時に説得したところで、お嬢が聞いてくれるわけないのは分かりきってるのに」