胡粋だって朝唐突に部屋に来ただけで。
呼んだわけじゃないんだけど、と思いながらも仕方なく布団に潜り込めば、「どこ行きたい?」と既にデートすることを前提とした雪深の言葉。
「わたし、デートするなんて言ってないわよ」
「ええ?
胡粋は良くて、俺はだめなわけ?」
さっきまでどうでも良さそうだったのが嘘みたいだ。ぶんぶんと尻尾を振ってついてくる様は、ご主人様のことが大好きな犬そのもの。
甘えるようにして見つめてくる雪深の頬を撫でたらキスを求められて、顔を逸らせば焦れったそうに強請ってくる。
「なんで逸らすの。
もう何回もしたんだから、今更一緒だって」
「何回もしたっていう事実がおかしいのよ」
「先に仕掛けてきたのはお嬢じゃん」
もう……とわざとらしい彼のため息。
だけど視線を合わせれば幸せそうにくすくすと笑うから。そんな表情を見せてくれるのなら、何だっていい。案外子どもっぽい雪深は嫌いじゃない。
「明日にでも、
お嬢とキスしちゃったって自慢してやろうかな」
「みんなから怒られそうだからやめて」
「いいじゃん。胡粋は怒るだろうけど」
それをわかってるから、やめてって言ってるのに。
夜も更けてきてそろそろ就寝に入りたい時刻。寝るわよもう、と背を向けたら、身体を密着させるように後ろから抱きしめてくる雪深。
「雪深、」
きっと離してくれないだろうから、
今宵は彼の体温を背に感じて眠ろうと思う。



