【完】鵠ノ夜[上]




だから。

自分からは決して、女の子に声をかけなかった。



「さみしいならわたしが構ってあげる。

女の子と遊ぶのだって、好きにしていいわよ。自分に言い寄ってくる子ばかり相手にするから、すぐに揉め事が起こるんでしょう?」



「んー……しばらくは、いいかな。

お嬢がこうやって俺と向き合ってくれたの考えたらさ。なんか、もうちょっと色んなことに気ぃ抜いても、案外なんとかなるかなって思えたし」



へらっと笑った雪深が、「お嬢」と甘い声で呼んでくるから。

なに?と聞けば、ちゅ、とくちびるに触れるだけのキス。もう一度触れたかと思うと、今度は身体が布団の中に沈んだ。



「どうしてわたしのこと押し倒してるの」



「んー、さっきのお返し?

俺のこと満たしてくれたからさ。お嬢のことも満たしてあげようかと思ったんだけど……」



耳元に寄せられたくちびる。

どこから出してるの、と思うくらい甘くて吐息混じりな声で「二人っきりで楽しも?」なんて囁いてくるから、堪らず彼を押し退けた。




「……同い年とは思えないほど色気出すのやめて」



「別に出してねえよ?

ただ、お嬢とちょっとイイことしたいなって、お誘いしてみただけじゃん」



「自分の安売りはしてないって言ってるでしょう」



まったく。

これだから遊び人は、とため息をついて「さっさと部屋に帰りなさい」と背を向けたら、今度は後ろから抱きしめられた。何がしたいんだ。



「ごめんって。

何もしないから……あさまで、一緒にいて」



「、」



「昨日の朝、胡粋と一緒だったらしいじゃん。

……ほら、俺ともデートしよ? 俺がプラン考えてあげるから、行きたいところ教えてよ」