雪深だけに限らず、全員が、校則に引っかかるような行為は一度もしなかった。髪色も服装も、ギリギリじゃない?と思うものはあっても、多少の小言を言われる程度。
それがどうしてなのかなんて、聞くだけ野暮だ。
主人である、わたしのため。
「地元では髪染めてたんでしょう?
わたしの護衛ってことは意識しなくていいから、もっと自由にしていいのよ。あなたが髪色を変えたぐらいで嫌いになんてならないから」
「……じゃあ、色、きめてよ」
もぞもぞと動いた雪深が、顔を上げる。
すっかり涙は引いたようだ。「ハニーブラウン」とだけ答えれば、彼が微かに目を見張って。それから、ふっと口元をゆるめる。
「黒髪にする前。
何色だったか、ちゃんと知ってんじゃん」
「わたしを誰だと思ってるのよ」
彼等の情報は、どんな些細なものでも逃さない。
必要かどうかは、今後の人生を掛けてゆっくり考えていけばいい。
「俺のことを誰よりもよく見てくれてる、最高にかわいいご主人様。……なんてね。
俺のこと学校で庇ってくれた時からさ、ほんとは、ちょっと罪悪感感じてたっていうか。俺のことちゃんと見て、守ってくれる人っているんだなと思ったよ」
屋上で。自分に価値がないと彼は言ったけど。
やっぱり、そんなはずないのよ。
五家の中で、誰よりも両親と不仲なのは雪深だった。
何かあって仲が悪いわけじゃない。……ただ、お互いに執着も関心もないだけ。
わたしが護衛として彼らを迎える前。
実は、彼らの両親に彼らの情報を書き込んでもらえるようお願いの手紙を送っていた。わたしが手にする情報の一部は、彼らの両親から提供されたものだ。
その中で、雪深だけは圧倒的に回答の数が少なかった。
だから、はじめからそこにほかの家ほど親子関係が築けていないことは認知していたのだけれど、愛に飢えていることすら、彼は自分ではっきりと実感していなかった。
ただ足掻くように、藻掻くように。
さみしさという言葉で一纏めにして、手を伸ばそうとしていただけで。自分を求めてくれる女の子を必要としていたから。



