「……まあね。俺の父親も、父親のお兄さんも鯊のことよく思ってなかったし。跡継ぎになれない人間の方が、鯊のことを好いてたから。
跡を継げる人間がその権利をどうでも良く思ってて、ほかの人間が欲しがってるなんてふざけた話でしょ」
「でも結局、
こいちゃんのお父さんが継いだんでしょー?」
「父親のお兄さんは、鯊のこともあった上に、一緒になりたい人がいたみたいだから駆け落ちして家出て行ったんだよ。
今じゃある程度関係は修復されてるけど、行き場を失った父親が必然的に継ぐことになったって感じかな」
そして父親の側近には、当時跡を継げる人間よりも鯊を継ぎたいと思っていた人間がついているんだから、これまた不思議な話だと思う。
一時は内部対立の悪化で抗争直前まで進んだというのに、今は何もなかったみたいに平和だ。
「こいちゃんも、跡継ぎ反対派だった?」
「俺は一人っ子だしね。
……生まれた時から、漠然と継ぐしかないって思ってたよ。昔からある程度ひねくれてたのもあって、誰か結婚したいと思えるほど焦がれる相手もいなかったし」
まさか、こっちに来てその考え方を覆されるとは思ってなかったけど。
レイの方が位は上だし、俺以上に組に関わっているのは嬉しい誤算だった。そんなこと言ったら、レイは怒るかもしんないけど。
「芙夏も、反対じゃなかった?」
「んー、反対はしてなかったよー。
ただ、言ってなかったけど……ぼく、本当はお兄ちゃんいるんだよねー。一回り離れてて、本当なら跡を継ぐはずだったお兄ちゃんがいたの」
「……なに、駆け落ちでもしたの?」
跡継ぎ放棄ってことは、そのあたりだろうと。
口にすれば、芙夏はふるふると首を横に振る。それから、思い出すように。何とも視線を合わせることなく、記憶を辿っているみたいだった。
「違法ドラッグに手を出して……
摂取のしすぎで、亡くなっちゃったんだよ」
「、」
「ぼく、お兄ちゃんが亡くなるまで、薬に手を出してたこと知らなかったんだよね。
ぼくが知ってるお兄ちゃんは、誰からも好かれて成績も優秀で、完璧って言葉が似合うすごく優しい人だったから」



