ああ、ほら、ひどく脆い。

そこにわたしの感情なんて差し支えないって言いたいんでしょう?自分はもうとっくに、気持ちなんてないんだって言いたいんでしょう?



「……会いたくなった」



『、』



「……っていうのは冗談だけど。

ちょっと顔見たくなったから、近いうちに、時間できたら連絡して。いつでもいいから」



『……22時』



「え?」



『今日の22時。

……お前の家の前まで行ってやる。上手く周りの人間撒いて出てこいよ。10分待って出てこねえなら、帰るからな』




横暴すぎる。自分は平気でわたしのこと待たせても、なんとも思わないくせに。待ち合わせに遅刻なんてしょっちゅうあるくせに。

自分が待たされるのは気に食わないだなんて、めちゃくちゃ。……だけどそういう男と3年の年月を過ごしたわたしも、相当、馬鹿っていうか。



「顔見てすぐに帰るの?」



『まさか。

……お前拾って、家帰って、4時にはそっち帰せばいいんだろ?』



明日の授業は寝不足確定だ。

土曜日に連絡するべきだった、と頭を抱えてももう遅い。わかったと返事すれば、仕事が忙しいからまたなと一方的に電話を切られた。横暴すぎる。



「……仕方ないわよ、ね」



恋愛という言葉が自分から遠ざかっていったのはいつだっただろう。

純粋に好きという気持ちを前に出せなくなったのは、それこそお嬢なんていう立ち位置がなくとも、自然になくなってしまっていたような気もする。



人の多さによってざわざわとする空間。

わたしの小さな悩みも、重なり合う歪な音の中で、掻き消されるように隠れた。