その囁きで、何人の女を落としてきたんだろう。



「あら……それはどうもありがとう。

でも、来てくれた時点で既に応えてくれてるんだと思ってたけど」



「それは……主人の命令だから」



来ないわけにはいかないでしょ、とわたしを見つめる瞳。

なんだかんだ素直ね、とじっとその瞳を見つめ返せば、胡粋の指が耳に触れた。ぴく、と肩を揺らしたわたしを見て、彼が囁きを直接耳に流し込む。



「……キスしていい?」



「いいわよ」



本当にこれが"デート"なのだとしたら、それを拒む理由はない。

そう思って答えたのだが、どうやら彼が望んだ答えとは違っていたらしい。




「まあ……それは冗談だけど。

こうやって改めて見たら、お嬢って綺麗だね」



「……そうやって口説いてキスしようとしてる?」



「口説いてるわけじゃないよ。本心。

……さっきのはただ聞いてみただけ。嫌なら嫌って言えばいいよ。ご主人様の言う通りにする」



これは心を開いてくれているのか、否か。

それでもはじめより近くなっているであろう距離を上手く掴みきれなくて、やわらかい笑みを浮かべて「どう?」なんて首を傾げるその姿が、懐いてくれているように見えて、困る。



「ああ、でも。今日は"御陵のお嬢としては、誘ってない"って言ってたんだっけ。

……なら、このデートは紛れもなく、"男"と"女"のデートとして捉えていいと思うんだけど」



崩される。きっと、端から。キスしていい?と聞いてきた、その時から。

彼はわたしを逃すつもりなんてないし、恋愛に対してかなり手馴れていると思う。地元で何人泣かせてきたのやら。



「わたし。

誘ってくる男より、誘われてくれる男が好きなの」