「……ただ純粋にプライドが高いんだと思ってた。
御陵のお嬢として育てられてきた分、ある程度は周りからチヤホヤされてるんだろうし、甘やかされて育ったわがままな女ほどプライドが高いから。……でも」
嫉妬しそうなほど、綺麗な横顔。
少し前までは中学生だったとは思えないほど大人びた風貌。今のわたしたちは例え腕を絡ませていなかったとしても、間違いなく周りからカップルだと思われているだろう。
……ああ、そういえば。
今はほとんど連絡を取っていない彼に別の男とデートした、だなんて言ったら、普通に叱られそうだ。
それともいっそ、
自然消滅した方が、マシかもしれない。
「実際は……
お嬢っていう箱に支配されて、そうすることしか出来なかっただけなのに。きっと跡継ぎとして育てられた五家の誰よりも、甘やかされずに育ってきたんでしょ?」
「……さあ。そんなこと、もう忘れたわ」
着いたわよ、と彼を見上げれば、どこか納得していないような顔でわたしを見る。
けれどこれ以上話しても無駄であることを悟ったのか、「今日は何色の本探し?」と話題を変えた。何色、と尋ねるあたり、やっぱり胡粋は頭が良い。
「今日は、透明かしらね」
「透明ってまた探すの大変そうな……
今日はピュアな気分でいたいとかそういうこと?」
「何言ってるの。胡粋の雰囲気が透明に近いからよ。
……言ったでしょ?今日はデートだって。考えるのはあなたのことだけにしたいの」
すたすたと歩き出せば、腕を絡ませているせいで彼は強制的に付き合わされることになる。
そのまま文庫本が並ぶ本棚に向かって、大きく展開されている新刊コーナーを吟味していれば。胡粋が腕を離すから、つられて顔を上げると右手にゆるく絡んでくる指。
「……恋人繋ぎの方が好みなら、
はじめから言ってくれればいいのに」
わたしの髪に、空いた方の手で指を通してくる胡粋。
梳くように撫でられて、目線を下に落とすことでまぶたを軽く伏せると、書店だからと声を抑える彼がわたしの耳元で囁く。至近距離なせいで触れる吐息が擽ったい。
「"デート"に応えないと、と思って」



