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「綺麗だねー」
にこにこと、笑みを絶やすことのない芙夏。
そうだね、と返せば「元気ない?」と聞かれてしまった。そういう訳じゃないんだけど、あながち外れているわけでもなくて、適当な笑みで誤魔化す。
「レイのいちばんって、なんだと思う?」
視線を少し先に向ければ、煙が苦手だからと風向きとは反対側にいる彼女。
ぱちぱちと散る光の粒。数時間前の雨はすっかり止んで、星が瞬く。手持ち花火の数はそう多くないけど、ひさしぶりにやってみれば綺麗だ。幼い頃みたいに、楽しいとは思わないけど。
「んー、御陵……かなぁ」
「まあ別に、正直レイのいちばんはなんだっていいんだけどさ。
……俺らじゃないことは確かなんだよね」
赤や緑の閃光が、夜の闇に眩しく走る。
数分で消えてしまったそれにどことない切なさを感じるなんて、笑ってしまう。バケツに溜められた水の中に入れると、ジュッと燃え尽きるように音が鳴った。
「……理解してもらえるのって心底嬉しいでしょ」
「……うん」
「それだけで十分なのに。
わがままになって、……触れたくなってさ」
こんなにも誰かひとりに対して枯渇的な感情を覚えるのははじめてだった。
心のぜんぶを侵食されたみたいに、すべて分かち合いたくて。触れてほしいし、触れたくてたまらない。劣情がはっきり芽生えたのも、彼女がはじめてだ。
彼女みたいに、蠱惑的で艶やかな赤い牡丹。
その上で羽を休める青い蝶が自分なら、どれだけよかったことか。綺麗な背に刻まれたその刺青に躊躇うことなく触れられたら、どれだけ幸せだったか。
「……レイの全部が欲しい」
口に出して、少しだけすっきりした。
彼女は甘く誘ってくるけれど、決して片鱗さえも与えてくれないから。それこそ、身体も、心の一部も。……焦がれて苦しいのは、好きになった俺だけ。



