【完】鵠ノ夜[上]




……変わらないな。

お互いの話をして、少なからず"他人"ではなくなった。それでも態度は変わらねえし、距離が縮んだとさえ感じる。



「ほら、動いて。

今日から稽古が被らない限り、わたしも同じ部屋で食事することになったんだから」



「え?まじで~?

よっしゃ、俺先顔洗ってくるわ~」



「ちょ、雪深ずるいんだけど……!」



「おいおい、

おめーら俺のこと置いてくんじゃねーよ」



……こいつらはガキか。

仕方ねえ奴らだな、と3人が占領していた布団を芙夏と片付けていたら、不意に雨麗が「はとり」と俺を呼んだ。



ん?と振り返れば、差し出されたのは昨日の封筒。

それを見て、一瞬声を呑み込んだが。……結局、それに対しては特に深い感情を抱くこともなく、端的に「破棄しててくれていい」と告げた。




「追わなかったのは……あいつのためで。

でも、本気で探せばすぐにでもあいつらを追い詰められた。なのに俺があいつを言い訳にしてそうしなかったのは、結局俺が甘かったからだ」



「はりーちゃん……」



「あいつらは、本当はやってないんじゃないか、って。

そんな可能性の方が低いのに、それでも最後まで……信じたかった俺が悪い」



大事だと思った人間を、この手で殺めるなんて、本当は無謀だったのかもしれない。

もし再会して手を掛けても、結局殺せなかったような気がする。……俺が、一度は本気で大事だと思った、信頼した相手だったから。



「ふふ……本当。

あなたは優しい人ね、はとり」



破棄していいと言ったのに、金庫へ戻される封筒。いつか必要になった時のために、なんて言うけど、必要な時が来ないと知ってるくせに。

……いや、違うのか。



必要な時が来ないと、わかっているから。

だから、あえて、残しておくのか。