【完】鵠ノ夜[上]








カサ、と微かに襖の擦れる音がする。

ここに来てからは慣れたが、洋風の造りな別邸で暮らしているには聞き慣れないそれに、ゆっくりと瞼を持ち上げる。まだ夢現から醒められないでいれば、耳に届く声。



「……おはようございます。

雨麗様、どうしてここで皆様が雑魚寝されてるんでしょうか」



「おはよう、小豆。

昨日ね、はとりと話をしてたのよ。そしたら、みんな聞き耳立ててたみたいで、終わった途端に部屋になだれ込んで来ちゃって」



「そのままここで就寝されたわけですか。

雨麗様、スペースがありませんけどまさか徹夜されたわけではありませんよね?」



「まさか。さっきまで雪深の抱き枕だったのよ」



「……雨麗様にはいい加減、自分が女性であることを自覚していただきたいです。

男子高校生というのは、欲望に活発で忠実な時期なんですから」



そういえば、部屋であのまま寝た、のか。

話が終わっていたら部屋にあいつらが入ってきて、雨麗を泣かせたと散々文句を言われてから、それぞれ抱えていたものを打ち明けるように話をした。




──結局。

やっぱりまだ怒っていたらしい柊季には、「お前馬鹿じゃねーの?いや、馬鹿だろ?はあ?頭ん中餓鬼すぎだろ」と暴言のオンパレードで罵られた。



「復讐みてーなこと考えてるより、大事なもん見つけた方が早いだろ!?」とも言われたが、解決したあとじゃなかったら普通に喧嘩してたな。

ちなみにあいつがそういう考え方をしてんのは一回り年の離れた妹がいるからで、俺にも弟や妹がいたとしたら少しは考え方が変わったかもしれないな、とは、なんとなく思ったけど。



「おはよう、はとり」



「……おはようございます、天祥様」



身体を起こせば、彼女と小豆さんからそれぞれ声を掛けられる。それに返事を返して改めて部屋を見れば、確かに全員雑魚寝だ。

しかもすぐに用意できる布団が4セットしかなかった分、詰めて寝たから狭い。縮こまって寝てる芙夏が可哀想すぎるだろ。



「本邸の洗面所使って顔洗ってらっしゃい。

今日は快晴だから、そこの縁側にいたら気持ちいいわよ」



「梅雨も早く終わって欲しいものですね。

雨麗様。頼まれた通り組員たちの旅行の出欠表用意しておきました。全員書き終わったら回収します」