【完】鵠ノ夜[上]




「ごめん、なさい……っ。

あなたに味方するようなことばっかり言ったのに、わたし、結局はあなたに復讐なんかして欲しくない、」



「……雨麗」



「大事だから……

五家の若なんてことも関係なくて、ただただあなたが、はとりのことが大事だから、お願い。……綺麗事ばかりで着飾って、ごめんね、」



はらはらとこぼれ落ちる涙。

懇願するように抱き着かれて、その様子が、いつかのあいつと重なって見えた。雰囲気も姿も、何も似てないのに。……似てない、のに。



「……、泣くなよ」



俺を本気で大事だと思ってくれているその姿は、同じだ。

それが恋情だとしても、忠誠を誓う相手だとしても、関係なく。俺のためだと、言ってくれるところは同じだ。



抱き締め返して頭を撫でてやってもなかなか泣き止まなくて、「……わかったよ」と呟く。

そうすれば、涙を瞳にいっぱい溜めたままの彼女が、俺を見上げた。……普段、そんな幼い顔、見せねえくせに。




「……そうやって、本気で嫌がってくれた方が。

どんなに綺麗な言葉を並べるよりも、響く」



「はとり……」



「その代わり。……さっきも言ったが、俺は復讐するためだけに生きてきたつもりだった。

だから代わりになるような、俺の生きる理由を、見つけてくれるならな」



うん、と彼女が頷く。

それからほっとしたように「よかった」と言う彼女。溜まっていた涙が溢れたのか、ぽたりと落ちたそれを見て、純粋に綺麗だと思った。



「……雨麗」



女に泣かれるのは、苦手だ。

だからあいつには、嬉し涙しか流させねえようにするなんて、んなかっこつけたこと言ってたくせに。結局また別の女泣かせてんな、と苦笑して。



泣かせて悪かった、と。

彼女の耳元で、小さく囁いた。