「観念しなさいよね」



どれだけ何をされても怯まなかった彼女。

卑怯なことに顔や手足の目に見える部分は傷つけられず、どちらかといえば女たちが手を止めてから助けに行くことになるだろうと、誰もが思っていた。



これで終わりかと、安堵しかけたその瞬間。

取り出されたのは鋭いハサミ。普段使うようなものじゃなく、簡単に言えば美容師が使うハサミだ。鋭いそれの刃先が、彼女の髪を撫でた。



「男たちの間で、あんたのこの髪が綺麗だって評判だったから。

……長くてうざったいし、切っちゃって良い?」



「……はとり?」



彼女の視線のすぐそばで、刃先がシャキ、と音を立てて重なる。

それと同時にじっとしていたはとりがわずかに身を動かした。声をかけたがはとりは無反応。



無視すんなよと舌打ちしていたら、聞き落としそうなほどわずかな声で。

普段は凛としている、揺らがないはずのその声が。




「髪だけは、やめて……」



明らかに弱々しく抵抗を見せた。

──その、次の瞬間。たった今までじっとしていたはとりがおもむろに立ち上がって俺らの想像を遥かに超える動きをしたせいで、潜めていたことも忘れて「は!?」と声が出る。



「おまっ、何して……!」



いくらほかの建物よりは高さがないといえどここは二階。

柵に手をかけたはとりが何の躊躇いもなく下に身を投げたせいで、芙夏と電話をつなげたままだったスマホに「お前らいますぐ来い!」と半ば叫ぶように声をかけた。



先に駆け寄った胡粋に続いて下を見下ろせば、どんな身体能力なんだか無事に降り立ったはとりが。

突然の出来事に固まっている女から、何の抵抗もなくハサミを取り上げた。それを見て一度ほっと息をついてから、俺らも階下へと駆け下りた。



「な、なんで、天祥くんがここに……

っていうかいま、二階から飛び降りて、」



慌てている女たちを横目に、はとりが彼女の手足のロープを解く。

それから、奪い取ったハサミを隙間に入れて、ガムテープを切り落とした。