──約、2時間前。
例外なく全員が車に乗り込み、彼女がいるはずの場所へと発進する。小豆さんが「念のためです」と積んでいた数個のアタッシュケース。
大きさや色が違うそれの中身は「機材」だと彼は言っていた。……が。
「現金が入ってるものがあるので触らないでくださいね」と言われた瞬間、さりげなく全員が目を逸らした。
だって想像しろよ、アタッシュケースに入ってる現金だろ。
少なからず札束が出てくんのは間違いない。……しかもそれがどれかわかんねーから余計に無闇に触れねえし怖い。
そんなこんなで着いたのは、海辺に立つコンクリートの倉庫らしきところだった。
アタッシュケースを二つ、手にした小豆さんが「行きましょうか」と声をかけてきてそれに続く。
錆びたドアを開ければ中からは薄ら声が聞こえてきて、どうやら場所はここであっているらしい。
足音をひそめるわけでもなく中へ向かえば、「あら」と彼女が振り返った。
「いらっしゃい。全員来てくれたの?」
何かの台にでっかい木の板が置かれただけの簡易テーブル。
その上にはコンビニの袋が置かれていて、パンやら飲み物やら、完全に朝食タイムだったらしい。……何回でも言うけどたとえ安全とは言え、誘拐された割に呑気だな。
「……というか小豆、どうしてそんなもの持ってるの。
取引のお金は複数のネットバンキングですでに振り込んだから必要ないって伝えてあったでしょう。あとソレ、中身教えたら怯えるんじゃない」
「念のためです」
「念のために拳銃なんか持ち歩いてたらこの世界すぐに滅びるわよー」
……ん? いまなんつった?
「拳銃!?」
あ、言っとくけど今のは俺じゃねーからな。
過剰に反応したのは芙夏だからな。心の中じゃ俺も同じ反応したけど、口には出してねーから。
「ほら、驚いてるじゃない。
……うちもなんだかんだ組だから、そのあたりは仕方ないわね。念のために聞くけど、ちゃんとお父様の持ち出し許可は取ったんでしょうね?」



