『芙夏のお兄さんは随分と年上で……
本来ならとっくに茲葉を継いでいたって、おかしくなかったのよ。結婚する予定だった彼女さんから敬遠されたことも聞いてるだろうけど』
「………」
『……これはあくまでわたしの予想であることを頭に入れて聞いてちょうだい。
……おそらく。芙夏のお兄さんは、はじめから茲葉を継ぐ気なんてなかったのよ』
「……継ぐ気がなかった?」
『彼は、芙夏にはすごく優しかったそうよ。
だけど長期間ドラッグに手を染めていた。……その発端は、彼女さんに振られたこと』
「……振られたのはもっと後じゃねーのか?」
俺が聞いた話だと、ドラッグはずっと前からやってて、そのあと女に振られてヤケになって、過剰摂取したっていう方が近い。
そもそものドラッグの発端は、興味本位だかそんなところだろうと、勝手に思い込んでいた。
『いいえ。……彼はおそらく、自分の家のことをよく思っていない彼女と結婚するために茲葉を出るつもりだった。
いわば駆け落ちするために、実の弟に恨まれるのが嫌で芙夏には優しくしてたのよ。その後に、裏切るつもりだったから』
「……なら、家のことを話して振られたってのはおかしいだろ」
『茲葉を出ると言っても頷いてくれなかった彼女さんへの気持ちが膨れ上がりすぎて、振られたことがドラッグに手を出す発端になった。
そこから彼女さんのことを、彼は何度も説得したけど結局頷いてはくれなかったの』
「………」
『彼がドラッグを過剰摂取して亡くなった……その数日後に。
結婚する予定だった彼女は、別の男と結婚した。おそらく結婚することを聞かされたのよ』
「……女の方が二股してたのか?」
『まさか。彼女は、彼がドラッグを始める発端となった日に、ちゃんと振っているんだもの。
彼女でもなんでもなく──ただ、哀れな、片想いだった』



