「……悪いとこなんか、なんもねーよ」
『そう……ならよかった』
「あいつらとの扱いの差も感じたことなんかねーし。
ただ、俺が一方的に気にしてただけだ」
両親からは、実子ではないことに触れられることはあまりなかった。
それこそ、御陵以上に本当の親子に近かったと言っても過言ではない。……それでも、周りの人間には、それをよく思わない人間だって、存在する。
今だって、一回り離れた本当の子どもである妹を跡継ぎにしたほうがいいと思っている連中だって、少なくはない。
だからこそそれを見返せるほどの実力を……という感情は、俺には湧かなかった。
反対されたって、どうだっていい。
結局は両親の言う通り俺が継ぐことになって、周りの意見は説き伏せられるだけだとわかっていたから。
そこに俺の努力がどう反映されるのか、まわりの目なんか、ちっとも気にしたことはなかった。
……でも、あの日記を見て、思ったことがある。
「……壱方の周りにいるヤツは、仕方ないから俺でもいいって、許容してんのに。
あの日記に書かれてたのは、俺じゃねえとダメだっていうようなものばっかだった」
壱方を継ぐのは、絶対に俺なんだと。
ほかの人間の言葉も感情も関係なく、紛れもない"壱方柊季"が家を継ぐと、それを前提として書かれていたから。……ただ驚いたっていうのもある。
でもそれ以上に。
主人が彼女でよかったと、心の底から思った。
「……なんで、そこまで俺にこだわってんだよ」
『……芙夏にお兄さんがいた話、知ってる?』
返ってきたのは、問いかけの返答にしては随分と的外れなもの。
それでも文句は言わずに、「ああ」と返した。少し前、芙夏は唐突に自分に兄がいたことを全員に打ち明けた。
そのとき、彼女から言われた言葉もすべて、隠すことなく。
……あいつは一番幼いくせに、たぶん誰よりも芯を持ってる。



