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か細く息を吐くと、液晶を撫でて耳に当てる。
コール音がそう続かない間に、向こうからは穏やかな『もしもし』が聞こえてきた。
『めずらしい。
柊季が、わたしに連絡してくるなんて』
「あー……悪い。
ほかのヤツらが連絡入れてるだろうから時間ずらしたら、結構遅くなった」
カラカラと、窓を開ける。
生憎俺の部屋の窓は山の方を向いているから、決して見晴らしがいいとは言えねーけど。しかも街灯が少ないせいで、見える景色は月明かりがわずかに照らす程度だ。
『気を遣わなくたって構わないのに。
……あまり夜更かししてないで、早く寝なさいね』
「……わかってる」
意味があって連絡したわけじゃないのは、たぶん言わなくても理解されてて。
その証拠に今日も彼女はいつもと変わらず、同じように、ただ静かに言葉を投げかけてくるだけだ。
「……ちょっと前に、時間をくれって言っただろ」
『ええ。……あら、デートのお誘い?』
「一回り年の離れた妹のプレゼントを買いに行くのを、付き合ってもらおうと思ってた」
梅雨の時期に突入したが、今日も雨は降らなかった。
空を見ている限り明日も雨にはならないだろう。……もう日付はとっくに変わっているから、今日、か。
「俺が壱方の実子じゃねーの、知ってんだろ。
……だから、そのことでも話がしたかった。あいつらがいたら気が散る」
『……わたしは実子かどうかなんて一度も気にしたことないわよ。
あなたがわたしの元へ来てから、ほかの五家と同じような対応をしてきたつもりなの。……けれど』
納得できないことがあったなら正直に言ってちょうだい。素直に謝るから。
何の躊躇いもなくそう言うから、息が詰まって仕方ない。俺が知ってる上の人間っていうのはたとえ自分に非があったとしても、決して認めはしねえ連中ばっかりで。



