ったく、と悪態をつきながらグラスをもう一つ取り出す。
意外と早く風呂から上がってきた雪深は、「胡粋と芙夏は?」とどっちに向けたわけでもない問いかけをする。どうでもいいけど服着ろよ。
「部屋。
……胡粋はお前より先に電話するって言ってたぞ」
「抜け駆けじゃねえの。
……まあいいけど。あいつお嬢に好きとは言ってねえから、アピール出来んのは俺の方だし」
「お前は本当に揺らがないな」
「はとりも別の意味では相当揺らがなくね~?
……あ、柊季さーんきゅ」
グラスを渡せば、ごそごそと棚を漁っている雪深。甘党な芙夏が頼んでいるからストックしてあるシロップ。
そこから一つ取り出して開けている雪深を横目に、珈琲だけが入ったグラスをはとりに渡す。ちなみに俺は牛乳は入れるけど、砂糖は入れない派だ。
どうやらここで飲んでいくわけでは無いらしく、次に風呂に入るのが胡粋でいいのか確認をとってから、グラスを持って階段を上がっていった。
数分経って、降りてきた胡粋が風呂に入れば、また必然的にしばらくはとりと二人になるリビング。
「俺、五家の中じゃお前が一番底知れねーと思ってんだけど」
「……本当に底知れねえなら、俺は今ここにいないだろ」
「だろうな。
底知れねーけど、お前に何かそういうトリガーになるようなもんがあるってことは全員気づいてる」
真面目な話は嫌いだ。何の面白みもねーし。
だから実子ではないことも、自ら口には出さなかった。そんなこと言ったって、どうにもなんねーんだからって。んなの結局は、俺の自己満足でしかなかったのに。
「……お前がそういう言い方するの、珍しいな。
女の下に仕えんのが嫌だって言ってなかったか?」
「はっ。一言足りてねーんだよ。
……好きでもねえ女の下に仕えんのは嫌だって話だ」
日記の中身を蔑ろにするほど、俺はガキじゃない。



