【完】鵠ノ夜[上]




「皆様に、少しでも雨麗様のお気持ちが伝わっていたら嬉しいのですが」



「……何言ってんすか、小豆さん。

俺らははじめから──仕えるためにここに来てんすよ」



言えば、小豆さんは珍しくきょとんとして。

それからくすくすと笑うと、「そうですか」と一言。……そうですか、ってすげえ素っ気ないな。



「雨麗様にもそう伝えてあげてください。

……きっと、とても喜ばれると思いますから」



「シュウくん、別邸もどるよー?

早くしないとぼくたち先行っちゃうよー?」



声を掛けられて、「すぐ行く」と返す。

小豆さんに「おやすみなさい」と言われてからその場をあとにすると、芙夏がなに話してたのー?と聞いてきた。



……お前さっきまで泣きかけだったじゃねーか。

なんで今は元気なんだよ、と訝しげな表情をしたのがバレたらしい。嫌そうな顔しないで、と腕に絡みついてくるから引き剥がした。




「お前はスキンシップ多いんだよ」



「え、だめなの?」



「……むしろいいと思ってんのか」



引っ付くなら女にしろよ、と言えば「レイちゃんしかいないもん」と拗ねる芙夏。

それにより雪深が「お嬢に引っ付くな」なんて言い出す。お嬢はお前の所有物じゃねーだろ。



その物言いが気に入らなかったのか胡粋が「雪深のじゃないでしょ」とさらに混ざるせいで、騒ぎすぎてうるせえ。

「誘拐されてんのにお前ら呑気だな」とボソッと零せばさすがに気まずかったのか口を閉ざす三人。どいつもこいつも似たもの同士だ。



「さっさと風呂はいって部屋でお嬢に電話しよ~。

俺先に風呂入っていい?入るよ?」



「勝手にしろっての」