『申し訳ありません、お父様。
お手を煩わせてしまった上に、余計な心配をおかけして』
「有能な人間をもっと身につけろ。
……五家の指示はお前に一任してあるはずだ。危険な予感のする日は護衛を増やすなり対策を取れ」
『……はい。以後気をつけます』
堅苦しい。本気で親子なのか疑うほどだ。
いっそ、本当に親子ではない俺の家の方が、もっと親子らしい気がしてくる。親子の形がどんなものであれど、これが少なからず甘くはないと、誰もが承知している。
娘として、心配じゃないのか。
御陵の跡継ぎだろうがそうでなかろうが、唯一の自分の娘なのに。……そこに親子の優しさは、存在しねーのか。
「帰ってきてからもう一度話をする。
……帰宅したら部屋に来い。わかったな」
『はい』
彼女の返事を聞いた彼は、何事も無かったかのように部屋を出ていく。
それを見送るのに再度頭を下げるが、襖が閉ざされても彼女はしばらく顔を上げなかった。……この場の誰よりも、礼儀正しくて、それに縛られて。
『……小豆、わたしの居場所はあなたのスマホに送ったから。
もう時間も遅いし、みんなのこと解散させて』
「……はい。わかりました」
『……あとは明日の朝ね。
依頼主の話もこのあとの計画も、合流してから話すわ。それじゃあみんな……おやすみ』
ぷつりと、電話が途絶える。
それをきっかけに、組員たちが機材を片付けたりぞろぞろとその場をあとにするのを見て、自然と俺らも別邸にもどることになった。
小豆さんに彼女の手帳を渡すと、彼はその中身を知っているようで。
「雨麗様は誰よりも皆様のことを大切にされてます」と穏やかに微笑まれた。
……痛いぐらいに実感したから、言われなくてもわかってる。
きっとこの先、彼女以上に俺らのことを理解してくれる人間はいない。忠誠を誓う相手なんか、はじめから一人だ。



