……すげえ真顔で何言ってんだこいつ。
お嬢もお嬢で「ありがとう」じゃねーんだよ。なんだこいつら。さっきちょっとだけ自分の主人に感動した自分に後悔したいぐらい、どうかしてる。
『……あ、ねえ、柊季。
もしかしてそれの中身、見たの?』
「あ? ……ああ、見た。
俺だけじゃなくて……こいつらも、全員」
『……そう。別に構わないけれど。
結構赤裸々に書いてるから、文句言われそうね』
「……何でこんなのはじめよーと思ったんだよ。
俺ら最初っから相当態度悪かっただろ」
「お前は今もだよ柊季。
お前は本気でお嬢とデートした方がい……いや、デートしなくていい。俺の知らねえとこで勝手にふたりで出掛けられてたまるか」
「ぜんぶ声に出てんぞおい」
お嬢のことで頭いっぱいすぎだろ……とため息をつく。
芙夏は胡粋に抱きついて微動だにしねえし、よくわかんねーけどカオス空間が完成してる。
「男に抱きつかれんのなんて無理」なんて言いそうな胡粋も、さすがに芙夏の様子を見て引き剥がせねーんだろう。
何をするでもないが、そのままにしてやっていた。
「──失礼致します」
そんな、どこか和やかな雰囲気の中。
空気を変えたのは、外から聞こえた一言。御陵の頂点に立つ人の専属使用人の声だと気づいた瞬間、部屋の空気はピシッと堅くなった。
御陵には昔からの格式高い挨拶がある訳じゃない。
ただ自然と部屋の中央は彼のために開けられ、全員が頭を下げる。テレビ画面の向こうのお嬢も、パイプ椅子から立ち上がって丁寧過ぎるほど深く頭を下げた。
「雨麗。面倒な手間をかけさせるな」
放たれた一言は。
娘の安全を確認するものでも彼女の心情に同調する言葉でもなかった。……彼女はどこまでも御陵の跡継ぎなんだと、思わざるを得ない。



