短く返した柊季が、二人をそのままに歩き出す。
言い合っていた二人はまったく気づかなかったようで、「柊季!?」と追い掛けてきた。……なんとも忙しない。
「いやいやおかしいじゃん……!
なんでお前がお嬢をお姫様抱っこしてんの!?」
「お前らに付き合ってらんねー」
「だからってシュウを選ぶのはおかしいよレイ」
「たかが教室の移動で騒がないの。
なら放課後車までは雪深が、車から本邸まで胡粋が運んでちょうだい」
それでいいでしょう?と言えば納得したのかふたりは口を閉ざした。
再びため息をついてようやく教室まで運んでもらうと、ふたたび柊季に「ありがとう」とお礼を言う。
念のため授業に間に合ったかどうか尋ねたら、どっちにしろ話は聞かないから同じだと言われた。
何かが凄まじく間違ってるような気がするけど。
「……ああそう、柊季。
さっき言った通り"見返り"を考えたんだけど。……あなたに直接聞いた方が早いと思って」
「、」
「見返り。……何がいいの?」
淡く揺らめく瞳。
護衛になる五家の若の情報をまとめたファイルをもらった時、一番興味深かったのは柊季だ。唯一、彼だけは。──壱方の、実子ではない。
「いつでもいい。放課後でも休日でも。
お前の時間の一部を、俺にくれ」
「……ええ、もちろん」
お望み通りに、と口角を上げた隣で雪深が「え、デート?ずるくね?」と呟いていたけれど、わたしも柊季もスルーしたためか、素直に黙った。
もう少し。もう少しで。──全員の抱えているものが、ようやく、出揃う。



