むすっとしながらクマに刺繍された名前を指でなぞる。

恋人らしくペアで買えばよかったのに、と自分だけもらったことにボヤいていたら、「んな高ぇもん二つも買えるかよ」と文句を言われたのも懐かしい。



そんなに高いなら、本当に中学生に与えるべきじゃない。

彼の金銭感覚は絶対におかしいと思う。そんな恋人から高級なプレゼントをもらっていたわたしが言えることじゃないけど。



「戴いた物は高級品ばかりだったのでは?」



「そうよ。このクマに、ブランドのバッグに、ブランドの香水とかコスメとか。

あとは……記念日に高級フレンチに連れていってもらったこともあるけど」



そんなにお金をかけなくていいと言ったのに。

ほかの男だったら与えてやれねえんだから、素直に受け取れと言われた。確かに憩は大きな会社の社長で、たくさん手元にお金がある。



普通の人と結婚したら、間違いなく出来ないであろう贅沢の数々。

俺の女なんだから甘えてろと言われ甘え続けた結果がこれな訳だが、今思えば贅沢させられすぎた。夏休みに、彼の出張ついでに旅行に連れていってもらったことだってある。



彼は一体どんな会社を目指しているのか、行先は主にリゾート地。

長期の旅行で、途中で近くの小さな無人島に一泊したこともあった。今思えば両親もよく許可してくれたものだ。男と二人だっていうのに。




「雨麗様には惜しむことなくお金を掛けていらっしゃいましたからね」



「そんなことしなくていいのに」



「好きだからこそ大事にしたかったのでは?」



さり気なく口にされた好きという言葉に、ドクッと心臓が反応する。

わたしは、憩のくれる愛情を疑ったことはない。口には出さずとも愛してくれていることを、わかっていて。……なのに、どうして。



「……会いたい、」



言葉をくれないだけでこんなにも不安になるんだろう。

好きでいてくれてること、わかってたのに。別れたあの日だって本当は……いや、でもそれじゃあ、どうして引き止めてくれなかったの、なんて。



烏滸がましく彼を責めるような感情だけが浮かんできて、朝食もまともに進まない。

結局残してしまって、小豆に「食事ぐらいまともに摂ってください」と怒られた。