「何言っているのよ。ちゃんと入院して、少しでも体調を整えることは、今の母さんにとって大切なことなのよ」


「そうね、そうだけど……。1度、家に帰りたいわねぇ。ほら、支度とかもあるし」

悪あがきして言ってみる。


「私と香奈子で要るものは用意して持ってくるから」


「でも」


私は美加子から香奈子に視線をうつす。


「日向に話していないのよ、病気のこと」



美加子も香奈子も、分かってたわよと頷き、
「日向には私から話す」
と、香奈子が言った。



「ダメよぅ」
日向には、私から話したい。

顔を見て、きちんと伝えたい。



「でも、もう話さないと」

香奈子が俯く。





「退院できるように、私、頑張るわ。このまま、ここで死ぬなんてイヤだもの。だから、日向にはまだ黙っていて」

香奈子は黙って頷いた。


「そうよ」
美加子も力強く頷き、
「母さんはまだまだ生きなくちゃ。100歳超えて、ご長寿で近所でも有名になるくらい、生きるのよ」
と、涙声で言った。

「だから、ちゃんと今日は入院して、元気になって退院するの。それで一緒に家に帰るのよ!」


美加子はついに涙を流してしまった。


香奈子も泣いている。



「無理言わないでよぅ、100歳超えるなんて、ちょっとビックリしちゃうわ」


冗談っぽく返事をしたけれど、私の頬にも涙が伝っていった。