「いい?笑子ばあちゃん」

日向は長い髪の毛を器用な手つきでお団子にまとめた。

日向の部屋。


平日、午前9時。



美加子と香奈子はそれぞれ出勤している。

美加子は近所のスーパーマーケットでレジ打ちのパートをしていて、今日はだいたいお昼過ぎに帰宅予定。


香奈子はきっと今日は遅いだろう。
勤めている会社の人と、何かの打ち合わせがあると言っていた気がする。


何の用事も無かった私は、勇気を出して日向の部屋のドアをノックした。

日向は私を部屋に入れるなり、「DVDを観よう」と誘ってくれた。


もちろん、「シー・ファンキーズ」のDVDだ。

「『シー・ファンキーズ』はファンを大切にしてくれるの。それがよく分かるのはライブなんだけど、今はライブしてないし、過去のライブDVDで我慢してね」


……ライブ。

あ、コンサートのことね?


「何年のがいい?」

日向がDVDを入れているらしい、クリーム色のボックスを探りつつ聞いてくれる。


「おばあちゃん、この間に聴いた歌がいい」

正直に言ってみた。


「この間に聴いた歌?『星の降る夜には』のこと?」

「そんなタイトルだったかしら。素敵ねぇ」

つい、うっとりしてしまう。

ひ孫の前で。

慌てて私は咳払いをする。