大きなお腹を抱えて、侍女に支えられながら俺の寝室に顔を出す妻のロージー。

 本当なら俺の方が体調を考慮して顔を出すべきだが、あまりあの部屋には入りたくない。
 実は彼女の寝室の壁には絵描き職人に作らせた数点の絵画がある。
 それは姉リリィの肖像画だ。 といっても本人はいないのだから、あくまでもロージーの想像を絵にしたもの。

 その絵画のリリィはソファーに座って両手を前に添えて微笑んでいる。 まるで聖女か天使のように。
 ローズは毎夜、そのリリィに話し掛けて包まれるようにしながら眠るのだ。

 俺はローズの心身が心配になり、何度か絵画を外そうとした。
 ところがその度にローズは絵画を全身で守り、頑なに拒否するのだ。 この世で一番愛しているとも言える彼女のリリィへの想いを考えると、もう何も言えなくなった。

 それ以来、俺はローズと寝室を分けるようになり立ち入る事すら踏み止まっている状態だ。