ジェイが用意した馬車に乗れば、もう引き返す道は残されていない。
 それでも私は彼と生きる道を選んだのだ。

 もっと言葉を尽くして別れたかった。
 だとしてもきっと足りないだろう。 いくらでもそこにいたくなるから。
 別れがたい時はこんな風にあっさりした方が寧ろ良いのかもしれない。

 ジェイが私の背中に手を添えて、身体を支えてくれる。

「これからは俺が君の家族だよ」

 その笑顔に問う。

「探し物は見つかった?」

「俺の目の前にね」

 そう答える彼が外に視線を送ると、玄関ポーチで馬車を見送る皆の姿。

「待って、お姉様!」

 ロージーが馬車を追い掛けようとするのをロナウドが止める。

 きっと涙がこぼれそうな場面なのに、どうしてこんなにも冷静でいられるのだろうか。

「お姉様! 行かないで!」

 ふと、向かいに座るジェイの手が私の頬に触れる。

「声を出していいんだよ」

 その指先に濡れるのが私の未練だと知った。